Hending『紬の花嫁』レビュー(評価：優)

あらすじ

いじめられっ子の真白葵は、禁忌呪物の吐瀉丸としゃまるに憑依されてしまい、おちんちんが生えた。そのおちんちんは、吐瀉丸が受肉したものだ。葵と吐瀉丸は感覚を共有しており、葵は男性としての性欲にも目覚めてしまった。

葵が親友の貴麗きれい山吹に事情を打ち明けると、山吹がおちんちんの性処理を手伝ってくれることになった。こうして相思相愛の二人は幾度となくエッチを繰り返すが、事後に時々、吐瀉丸は自身の過去にまつわる悲しい夢を見る。

作品解説

ふたなり百合が紡ぐ古今の伝奇物語

『紬の花嫁』は、禁忌呪物(吐瀉丸としゃまる)に取り憑かれた箱入り娘たちの純愛を描いた、涙あり、孕ませありのふたなり百合作品だ。

葵と山吹は永久桜のある街で百合の花を咲かせるが、時折、吐瀉丸の人間だった頃が夢として回想される。夢の内容は断片的で、はじめは要領を得ない。だが、葵と山吹がセックスを繰り返すうちに、徐々にその全貌が明らかになっていく。

葵と山吹が愛し合い、孕むことは、この世界では単なる女の子どうしの恋愛以上の意味を持つ。それは吐瀉丸と、彼に深い関わりのある永久桜をめぐる悲劇的な神話によって裏付けられている。

『紬の花嫁』は、抜きゲーとしてのふたなり百合に終始せず、シリアスな伝奇ストーリーにも力を入れた作品だ。単純にエロシーンの出来だけ見ても素晴らしい作品だが、ストーリーのほうも真面目に追っていく価値がある。

なお、本作のストーリーは、前作『ソープランドのはっしゃくさま』とつながりがある。吐瀉丸が速水家に因縁を持っており、前作でも登場した速水遥が重要な役割を担っている。

だが、前作の存在を知らずにプレイしたとしても、ストーリーの本筋の理解に支障はない。言われなければ、同じ世界観の別作品があることにも気づかないかもしれない(……まあ読者は、たった今知らされたわけだが)。どうしても気になるなら、本作をプレイした後で前作にも触手を伸ばしてみるといい。

匂い立つエロシーン

葵と山吹は、ふたなり化すると、男女両方の性欲が芽生える。その結果、自分自身を含めた女のフェロモンに敏感になる一方で、吐精されたばかりのザーメンの匂いにも興奮してしまうのだ。

このため、エロシーンでは特に、ふたなり百合の性的な匂いに着目している。テキストでは、匂いについて頻繁に言及される。ビジュアルにおいては、下着に滲んだ体液の染みや、柔肌に滴る母乳(*山吹は母乳が出る)やザーメンを描き、”いかにも匂いそうな”様子を視覚的に訴えてくる。

ただし、ここでいう”匂い”とは、”臭い”ではないことに留意しよう。百合の花に喩えられるような少女たちの体から漂うのは、花に相応しい”匂い”だけだ。決して悪臭の類ではないのだ。

百合の間をつなぐおちんちん”吐瀉丸”

少女の股間に生えるおちんちんは、吐瀉丸が受肉したものである。吐瀉丸が言うには、彼が自分の体だとはっきり認識できる部分は、そこだけらしい。

しかし、吐瀉丸は、葵と山吹が”よしよしエッチ“している最中は決して彼自身の人格を表出せず、物言わぬ”おちんちん”となる。つまり、吐瀉丸自身がセックスの主体となることはない。いわゆる”百合の間に挟まる男”になろうとせず、”百合の間をつなぐ”だけに徹する吐瀉丸さんには、敬意を抱かざるを得ない。

評価：優

良かった点

葵がふたなり化した際の初々しさが良い

葵は、山吹に性処理を手伝ってもらうまで、いきり立ったおちんちんを宥めるには自慰するしかなかった。しかし、純粋培養の箱入り娘が男性器の扱き方など知るはずもない。そのため葵は、まるで精通したての男子が小中学生のうちに試みるような性の探求を、女子校生の立場で後追いすることになるのだ。

私は、葵がオナニーするときに見せる初々しさがとても好きだ。葵は女子なので、男子とは着眼点がズレているところも良い。本作は、ふたなりになってしまった少女の心と体の機微を上手く表現できている。

手探り感のあるエッチが良い

葵と山吹は、二人ともエッチな知識が乏しいので、ペッティングも本番も手探りでやっていくことになる。エッチな知識をちょっとずつ学習し、いろいろな卑語やプレイを実践していく。

箱入り娘たちが抑えがたい性欲に目覚めた反動で、お互いを変態さんに調教していく過程に心惹かれる。

エロアニメの出来が非常に良い

エロアニメは、前作も充分良かったが、本作ではさらにダイナミックな動きになり、表情の変化が豊かになった印象だ。解像度が上がって画面全体のざらつきが低減されており、よりクリアな画質で鑑賞できる点も良い。

ストーリーとエロの調和

本作は、伝奇ストーリーとエロを調和させることが上手く出来ている。伝奇のディテールに拘泥せず、必要最低限の設定ですっきり話をまとめている。ストーリーにエッチすることの意義が組み込まれているので、エロシーンがストーリーから浮いていると感じることもなかった。ストーリー構成が前作よりも全体的に洗練されていると思う。

気になる点

エロ用の基本CGが少なめ

基本CGは、全部で36枚。このうち、エロ用CGは25枚しかない。

基本CGの使いまわしが多い

エロシーンでは、同じ基本CGの使い回しが目立つ。エロアニメも幾つか使い回されている。本作は、ストーリー用の非エロCGが多めなので、そのせいかもしれない。

テキストとビジュアルの不一致

エロシーンで、テキストとビジュアルが噛み合っていないことがよくある。テキストにおけるプレイの変化に、ビジュアルが追いつけていないという印象だ。また、そもそもその構図・ポーズでそのエロシーンを描くのは無理があったのではないか、と思うシーンもあった。

結論

評価：優 『紬の花嫁』は、ふたなり百合の初々しさを楽しめる良作だ。葵がふたなりになって間もない頃の不慣れな自慰や、葵と山吹の手探り感のあるエッチに心惹かれる。伝奇ストーリーとエロが上手く調和しており、互いの邪魔になっていない。

しかし一方で、テキストとビジュアルが噛み合っていないエロシーンがあることは要改善。テキストに合わせて複数の基本CGを用いるか、それが無理ならベターな演出方法を模索してほしい。

本作は「ふたなり百合x伝奇」というニッチな題材であるために、誰にもオススメというわけにはいかないが、心惹かれる何かがあるなら買ってみると良い。

エロシーンの詳細